"スノービーチプロジェクト" とは (公式)

"スノービーチプロジェクト" とは (公式)

豪雪地集落の薪炭ブナ林を活用する
-スノービーチプロジェクトの取組み-

著者:紙谷智彦(新潟大学名誉教授・スノービーチプロジェクト世話人)

*当記事は、紙谷先生が茨城県自然博物館に寄稿した内容を、許可を得てSTORIOが転載しています。

豪雪地の薪炭ブナ林(魚沼市大白川)

↑豪雪地の薪炭ブナ林(魚沼市大白川)

・豪雪地の薪炭ブナ林

 豪雪地の集落周辺にはスギ林とともに広葉樹林が広がっています。集落から奥山に入るほど、その広葉樹林にはブナが増えていきます。かつて、奥山にひろがるブナ林では、残雪期に薪が切り出され、無雪期には斜面に作った窯で炭が焼かれていました。半世紀前までのブナ林は、生業の薪炭林として持続的に利用され、集落経済の重要な資源でした。家庭用エネルギーが薪炭からガスや石油などの化石燃料に切り替わってからは、薪炭林は利用されなくなっていきました。

 現在、大手家具メーカーが製造販売しているブナ製家具のほとんどは、欧州から輸入されたブナ材が材料になっています。国内の豪雪地には、かつて薪炭林だったブナ林が広がっているにもかかわらず、ほとんど活用されていないのです。日本列島のブナ林の分布が積雪分布に極めて似ていることからも、ブナは豪雪に適応した樹種です。固い材をもつブナは根曲がりが少なく真っすぐ育つことから、木材として利用する際の歩留りは良いものの、薪炭林だったブナ林は本数が多すぎるために、なかなか太れないのです。

・薪炭ブナ林を間伐し、間伐材を活かす

 高齢化と人口減少の著しい豪雪山間地の集落には、そのような利用されていない薪炭ブナ林が多く残っています。かつて集落の経済を支えていたブナ林を生業の森として復活させるには、欧州のブナのような家具材などに使えるよう育成する必要があります。

 そのために、多すぎる木の数を減らし、残した木の枝葉を増やすことによって、幹を太らせるのです。植林したスギ林で行われる間伐と同様の育成方法ですが、薪炭ブナ林ではスギ林以上に多くの間伐木を切る必要があります。針葉樹は三角錐のような樹形で周りから光を受けやすいのですが、広葉樹では森の天空をひしめき合って埋め尽くしているので、枝葉が余裕をもって広がる空間を広く確保する必要があります。

 間伐では、根曲がりが少なく、幹がまっすぐ伸びている木を残します。そのような木が順調に成長すると家具材などに使いやすいのです。一方、間伐で切られた木は、細いために木材としてはあまり使えませんが、薪ストーブの燃料やきのこ栽培には有効です。上越市大島区のゆきぐに森林組合では、ナメコの菌床栽培用にブナの間伐木をおが粉に加工して活用しています。

 薪炭ブナ林を間伐することで森の中には多くの光が入ります。それまで少ない光に耐えていたブナ稚樹が旺盛な成長を始めます。将来、そのうちの何本かは森の天空を覆う次世代のブナに育っていきます。

間伐されたブナ林で成長するブナ稚樹

 ↑ 間伐されたブナ林で成長するブナ稚樹

・生物多様性の高い森に誘導する伐採方法

 原生林では太い木や細い木、立枯れ木や倒木などがモザイク模様のように広がっています。大木が倒れた後のギャップと呼ばれる空間には、様々な植物が育ち、昆虫や小動物も多く、生物の多様性が高いことが知られています。ところが、薪炭林のブナは、広い範囲で木の大きさがあまり違わないために、同じような大きさの枝葉のまとまりが天空を覆っています。そのため森の中には直射日光が入り難く、原生林のようには多様な生きものが生息できません。

 魚沼市大白川地区では47年前の1973年から旧薪炭ブナ林の間伐を2~3回繰返し行っており、現在ではその多くが、家具材などとして利用できる大きさにまで育っています。大白川地区の山の神ブナ林では、2017年から直径が50~80センチメートルに育った木を中心に、原生林のギャップのように、小区画(400~1000平方メートル)を少しづつ伐採しています。伐採の条件としては、すでに次世代のブナ稚樹が十分に育っていることを原則としました。隣り合った小区画の伐採は10年以上の間隔をあけることとしています。

 これを循環的に繰り返すことによって、原生林のような生物多様性に優れたモザイク模様の林に誘導しながら、100年周期で持続的な収穫ができる森を目指しているのです。

区画伐採で収穫された後のギャップ

 ↑  区画伐採で収穫された後のギャップ

 小区画で伐採されたブナは、製材所に運ばれます。製材所では家具などに使いやすい板になります。加工されたブナの板には、カミキリの幼虫による穴あきや菌類による変色したものが多く、そのようなダメージが無い板の方が少ないことがわかりました。ほとんどの穴はブナの木の中で幼虫時代を過ごすクワカミキリによるもので、標高が低いほど穴あきの木が多く、また、薪炭林として長く利用されていたブナ林には多いこともわかりました。

・生態デザインのブナで豪雪地集落の再生をめざすスノービーチ

 薪炭林から収穫したブナ材を家具材などとして使う場合、そのようなダメージ材の利用は避けられません。むしろ、ダメージ材こそカミキリやその幼虫を餌とするキツツキなどが生息するブナ林の生態を象徴するものです。私はそのようなダメージ材を自然が作った「生態デザイン」と名付け、より自然なブナ材であることを強調することにしました。

ブナの正常材

 ↑ 白い木目が美しい、ブナの正常材(樹皮付き)

「生態デザイン」のブナ材

 ↑ 「生態デザイン」のブナ材

 正常材も含めて生態系の中から生まれた「生態デザイン」のブナ材は、デスクや大型テーブルに加工され、JR新潟駅の個性的な待合室にも多数使われています。秀逸なデザインのチェアーの座面には、やはり生態デザインの集成材が使われました。住宅内装でも玄関ドアやキッチンカウンターなど数々の個性的な製品を生みだしました。東京おもちゃ美術館にもこのブナで作られた製品があります。表札、掛け時計、コースターなど多様な木製品も作られました。薄い曲げ木のブナ製のランプは国内外の賞を獲得しました。

 ここで紹介した集落のブナ林活用の取り組みに参加された皆さんとは、定期的に検討会を開き意見交換をしてきました。生態デザインの板を使う関係者は、現地を見学し、調査や森林作業に参加するなど、かつての薪炭ブナ林を活用するための活動を支援しています。

 そのような取組みから切り出されたブナは「スノービーチ【雪国のブナ】」と名付けました。スノービーチは、間伐によって成長を促した稚樹が小面積の伐採によって世代交代することを前提としています。100年後のその先には、生物多様性に優れた原生林のような構造を備えたブナ林が成立し、そこからさらに次世代のブナが収穫できる持続的な林業の姿があります。

スノービーチプロジェクトによって作りだされた多様なブナ製品

 ↑ スノービーチプロジェクトによって作りだされた多様なブナ製品

紙谷智彦(新潟大学名誉教授・スノービーチプロジェクト世話人)

 ↑ 著者近影:紙谷智彦(新潟大学名誉教授・スノービーチプロジェクト世話人)

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2件のコメント

ストーリオ木村です。先日はご馳走様でした。
浅草山荘のランチ、お肉がとても美味しかったです!

雪上間伐、ぜひご参加ください。日程決まりましたら、メールさせて頂きます。
山の神でお会いするのを楽しみにしております。
今後ともよろしくお願いいたします。

木村 和久

スノービーチプロジェクトに参加したいです。2023年の3月の見学会の時、娘の出産トラブル
で参加できずに今は浅草山荘の総支配人で、みなさまの食事を提供しています。次の見学会には是非参加させて下さい。よろしくお願いします。

関 隆之輔

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